「相手は悪気なさそうだけど、モヤッとする言動だ…」
職場でそう感じた経験はありませんか?
それは、相手の「アンコンシャス・バイアス」が原因かもしれません。
本記事では、職場の人間関係や、個々人のキャリア、組織活動にネガティブな影響をもたらしうる「アンコンシャス・バイアス」についてご紹介します。
アンコンシャス・バイアスとは?
誰しも程度の差はあれ、何かを見聞きしたり、誰かと会話したり接するときに、無意識に「こうだ」と思い込むことがあります。
これを「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」といいます。
アンコンシャス・バイアスは、過去の経験や見聞きしたこと、価値観、知識などをベースに現れます。
自分自身では、モノゴトの見方にゆがみや偏りが生じているとは気づきにくいことが、「無意識の偏見」と呼ばれる所以です。
代表的な例でいえば、「男性/女性だから●●だろう」「若者/年配の人だから●●だろう」といったものです。
アンコンシャス・バイアスが注目される背景
近年、個々の人材が生き生きと働くことのできる環境を整えることによって、自由な発想が生まれ、生産性を向上し、自社の競争力強化につながる「ダイバーシティ経営」の推進が行われています。
そうした社会の流れの中で、多様性の受容を妨げる要因の1つでもあるアンコンシャス・バイアスも注目されるようになりました。
アンコンシャス・バイアス自体は誰もが持っている
アンコンシャス・バイアスを持つこと自体が悪いことではありません。
アンコンシャス・バイアスは、大量の情報の中からすばやく判断・行動することを可能にするため、私たちが日常生活を円滑に送るうえで、大切な脳の働きでもあります。
アンコンシャス・バイアスの何が問題となるのか?
問題は、気づかないうちに決めつけたり、押し付けたりすることです。アンコンシャス・バイアスがきっかけで、相手を傷つけたり、自分自身の可能性を狭めてしまったりと、様々な負の影響をもたらすことがあります。
組織においては、アンコンシャス・バイアスを放置すると、社員のモチベーションやパフォーマンスの低下、ハラスメントの増加、離職といったことが起こりえます。
相手を傷つける、人間関係が悪化する
「経験からこういう事例が多い」とわかっていたとしても、人はそれぞれ違います。
「Aさんがそうだったから、同じ属性のBさんもそうだろう」と勝手に判断するのは得策ではありません。
ひとりひとりを尊重していないと見なされたり、誰かを傷つけたり、職場の人間関係が悪化したりすることもありえます。
自分自身の可能性を狭める、成⾧の機会を失う
過去や現在に固執したり、自己評価を過度に下げてしまうことにより、自分自身の可能性の芽を摘んでしまうことがあるかもしれません。
自分だけならまだしも、バイアスによる判断で同僚や部下など周囲の成長機会を奪うこともあるかもしれず、それは企業にとっても損失になってしまいます。
採用や評価などで公正でない判断をもたらす
特定の属性や年代、学歴などに左右され、その人の本質を見ずに決めつけるのは公正ではありません。
近年では、採用の場面で履歴書への性別記載が任意となるなど、バイアスによる判断をなくすための仕組みづくりも見られています。
ハラスメントが起こる
権威バイアスや集団同調性バイアスなど、バイアスがかかりすぎると組織のヒエラルキー構造を強めてしまいかねないバイアスもあります。
また「体育会系出身者には厳しく指導すべきだ」などの思い込みもハラスメントにつながりかねません。
アンコンシャス・バイアスの代表例
いくつか例をご紹介します。
正常性バイアス
日常とは違う出来事が起きたときに「正常の範囲内である」と判断すること。
(例)災害時に「自分だけは大丈夫」と避難をしない。トラブル発生時に「今回のミスはたまたま」と問題を見過ごす。
集団同調性バイアス
周囲の意見に合わせてしまう心理のこと。
(例)会議で多数派の意見に同調する。集団の誤った選択に加担する。
アインシュテルング効果
慣れ親しんだ考え方やものの見方に固執してしまうこと。
(例)「前例がないから却下する」「新しい便利なツールの導入をためらう」「経験の浅いものの意見を聞かない」など。
コミットメントのエスカレーション
「ここまでやったのだから、もう後には引けない」と思う心理。
(例)「これだけの時間とコストを費やしたのだから」と間違いが発覚してもやめず、損失が膨らんでしまう。
ハロー効果
際立った特徴がある場合に、その特徴が他の要素にも影響を与え、評価や印象をゆがめてしまうこと。
(例)「語学が堪能だから、いろんな仕事を任せられそう」、「転職回数が多いから、仕事ができないのでは」など。
ステレオタイプバイアス
特定の属性にある人に植え付けられた固定観念のこと。
(例)「サポート業務は気配りが得意な女性の方が向いている」、「男性だから理系が得意」など。
確証バイアス
自分の意見に合った情報だけを信じ、都合の悪い情報は無視してしまうこと。
(例)情報収集の際、偏ったデータばかりを集める。上司からの助言に耳を貸さず、成長のチャンスを失う。
慈悲的差別
女性や障害者、高齢者、育児中・介護中の社員など、配慮を必要とする人に対する偏った思い込み。
(例)「育休明けの職員は内勤の方がいいだろう」、「介護中だから異動しない方が新しい仕事を覚える必要もないし良いだろう」など。
インポスター症候群
自分の能力や実力を認められず「自分は評価されるに値しない、周りを欺いている」と思い込むこと。
(例)「成功したのは運がよかっただけ」、「周りの支えのおかげ」と、挑戦を恐れたり管理職になることをためらう。
権威バイアス
権威のある人の言うことは正しいと思い込むこと。
(例)「先輩や上司の言うことだから正しい」、「有名人が言うんだから間違いない」など。
現状維持バイアス
変化を恐れ、現状に固執してしまう心理傾向のこと。
(例)新しい環境への不安や後悔するリスクを拭えず、行動に移せない。時代の流れから取り残される。
アンコンシャス・バイアスが発生する要因
良い面も悪い面もあるアンコンシャス・バイアス。無意識に働くものであるため、なかなか自覚も難しいものではありますが、一体どんなときにバイアスは発生するものなのでしょうか?
エゴ
自分にとって居心地の良い状態を保ちたい、自分を正当化したいという気持ちがあるときにバイアスが働きます。
自分を守りたいという自己保身や自己防衛心、いわば「エゴ」がバイアスを引き起こすと言えます。
習慣・慣習
過去の経験によって培われた習慣や慣習が脅かされるときにも、バイアスが発生します。
習慣や慣習を変えるストレスや、時代に合わなくなってきたことへの違和感からアンコンシャス・バイアスが働くのです。
感情の高ぶり
感情が高まると、合理的な思考が阻害され、無意識のうちに先入観や偏見に基づいた行動や判断がうまれがち。
特に不安やストレスなどのネガティブな感情はアンコンシャス・バイアスを引き起こす要因になります。
このようにアンコンシャス・バイアスは、特にストレスや不安の多い状況で自分を守ったり、素早い判断を行ったりするために作用することが多くみられます。
アンコンシャス・バイアスに向き合うことのメリット
アンコンシャス・バイアスの種類を知り、どのような悪影響があるのか知って向き合うことは、個人としても組織としてもさまざまなメリットがあります。
個人としてのメリット
自分がどのような先入観を持ち、どんなときにそれが働くのかを見つめることで自己理解が深まります。
自分の持つ偏見に気付けば、立ち返って客観的な視点を持つことも可能です。
対人関係においてもひとりひとりを尊重したコミュニケーションに努めることができるようになるでしょう。
組織としてのメリット
異なる特性や属性を持つ従業員ひとりひとりが尊重されることで、違いを受け入れる風土、意見を言い合える空気がうまれます。
従業員のエンゲージメントやモチベーション向上にもつながるでしょうし、また、イノベーションの起きやすい組織にもなるでしょう。
アンコンシャス・バイアスを理解し向き合うことで、個人にも組織にも好循環をもたらすことが期待できます。
特に企業においては、ダイバーシティ&インクルージョンの推進にもつながりますね。
アンコンシャス・バイアスへの対処法
時に悪影響を及ぼしてしまうアンコンシャス・バイアスですが、それに向き合い、活かしていくためにできることをご紹介します。
アンコンシャス・バイアスについて知る
アンコンシャス・バイアスはその名の通り無意識の思い込みであるため、自分でも知らないうちに発生しているものです。
まずはアンコンシャス・バイアスとは何かを知り、どんなバイアスがあるのかを理解することから始まります。
相手の表情や態度で「気付く」
次に、自分が抱きがちな先入観に気付くことが大切です。
自分の発言や行動による周囲の反応を観察してみると、嫌な気持ちにさせてしまったり、勝手な判断を強要してしまっていないか認識することができるようになります。
決めつけない、押し付けない
自分が持つ偏見に気付いたら、あとは少しずつ改善していきましょう。基本は「決めつけない」「押し付けない」こと。
人はひとりひとり違い多様な考えがあることを認め、また時代の移り変わりにより常識が変わることを踏まえて、様々な角度から物事を考えるよう心がけていきましょう。
自分の持つバイアスの傾向を知り分析できれば、マイナスに働いてしまうアンコンシャス・バイアスを少しずつ改善していくことができます。
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まとめ
アンコンシャス・バイアスは誰もが持つもので、時に自分の心を守ったり迅速な判断を可能にするものです。
しかし、時に偏見に基づく勝手な判断で人を傷つけたり、組織にとって悪影響を及ぼしたりする可能性もあります。
多様性を認め合うことでイノベーションをもたらし会社の成長につなげるためにも、マイナスに作用してしまうアンコンシャス・バイアスは個人としても組織としても改善し、競争力強化につなげていきたいものですね。