2024.11.8

採用やマネジメントにおいて アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が弊害になる?!

#多様性
#採用
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(※2024年7月21日放送の「#キャラトラ」を記事化したものです。)

こんにちは!ワーキングペアレンツのための転職サービス『withwork』です。
現在進行形で企業経営に携わる、 XTalent代表・上原達也とXTalentアドバイザー・田中優子が、 男女やケア責任のありなしに関わらず、誰もが活躍できる組織運営について雑談していきます。

今回のテーマは、「採用やマネジメントにおける、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」について。
時代を超えても根強く残るアンコンシャス・バイアスが従業員のモチベーションやロイヤリティにどのような影響をもたらすか、そして、その解決口
について話します。

根強く残る、性別の「アンコンシャス・バイアス」

上原:
アンコンシャス・バイアスの事例としてよく取り上げられるテーマの1つに、「性別」があります。
今放映中の(※2024年7月時点)朝ドラ「虎に翼」でも、アンコンシャス・バイアスに関連する話がありましたよね。
主人公の女性が採用面接時に、「君が働くことについて父上はなんとおっしゃってるのかね。」と言われたことについて、僕の知人も「まったく同じことを言われた」とFacebookで投稿していました。
「虎に翼」の時代設定は、昭和初期〜後半なのですが、時代を重ねてもアンコンシャス・バイアスはまだまだ残っているんだなと感じます。

田中:
この「君が働くことについて〜」という台詞は、大学時代の恩師の言葉なんですよね。
そこに至るまでの経緯を簡単に話すと、元々主人公は大学で法律を学び、弁護士として働いていたんです。
女性は家庭に入るのが当たり前だった時代に、です。
でも、妊娠・出産後、仕事と育児の両立が難しくなり、ものすごく悩んだ末に一度司法の世界を離れるんですね。

しかしその後、戦争で父や夫、兄といった一家の稼ぎ手となる男性を全員亡くしてしまい、家庭を支えるためもう一度働こうと決意します。
そのようなタイミングで恩師と再開するのですが、「あれほど辛い思いをして辞めると決意をしたのに、また働くの?」「小さな子どももいるのに、お父さんはあなたが働くことに対してなんて言ってるの?」と言われるんです。
けっして悪意はありません。
恩師からしたら、心配や善意から出た言葉です。

主人公が事情を伝えると、 恩師は「一家の男性が皆亡くなったから、仕方なく働くんだね。何も知らずに悪かった。」 と、“家庭との両立がしやすい”家庭教師の仕事を紹介してくれるんです。
でも結局、主人公はその紹介を断り、司法省で男性に紛れながらやりがいを持って働く道を選ぶんです。

今回話題になった話は戦後間もなくの日本を描いていますが、今でもアンコンシャス・バイアスな発言は形を変えて存在していますよね。

上原:
例にあげた虎に翼の台詞は、「昔はそうだったよね」ではなくて、「今でもこういった考えが残っている」と気づかされる言葉ですね。

田中:
アンコンシャス・バイアスは無意識だからこそ、本人もそうですけど、言われた側も気づきにくいんですよね。
主人公に向けられた恩師の台詞は「それってちょっと変な発言じゃない?」と、今だったら言われるかもしれません。

でも、女性が家庭に入るのが当たり前だった時代には、「働きたくて働いてるわけじゃないのにかわいそう」「働かなくて済むなら子供と一緒にいた方がいい」という考えの方が“当たり前”と感じる人が多かったでしょうから、自分がアンコンシャス・バイアスな発言をしているなんて想像もしないんですよね。

そもそも発言している側にとっては「心配する気持ち」だったり「善意」が言葉の根底にあるので「偏見を持った発言」という意識がない。
そして、言われた側もそれを感じるから、なかなか違和感を持てないんだと思います。

時代の流れだけではなかなか変わらない価値観というか、これまで「当たり前」とされてきた考え方は、男性でも女性でも若い人でも、年齢や性別に関係なく誰もが持っているからこそ、現代でもアンコンシャス・バイアスは簡単にはなくならないんじゃないでしょうか。

良かれと思っての発言が離職のきっかけに…

上原:
ここからは、実際に組織におけるマネジメントの中でアンコンシャス・バイアスがどのような弊害をもたらすかについて話していきたいと思います。

アンコンシャス・バイアスな発言に対して「なにかおかしい」「なぜかモヤモヤする」と言われた側が違和感を持てれば、まだ解決の糸口があると思います。
しかし、「やっぱりそうなんだ」と感じて自分の考えや感情をしまい込んでしまうと、結果的に言われた側のその後の行動に影響が出てくると思います。
たとえば、自分の希望や考えとは別の行動や選択をしてしまったり、もしくは、組織へのロイヤリティがなくなって離れてしまったり。

田中:
相手は自分のためを思って言ってくれているんだと思うと、「やっぱり自分が間違っているのかな」「自分の考え方はすごくわがままなのかな」と感じてしまう人もいますよね。
たとえば、「子育て中だけどフルタイムで働きたい」と思っていたのに、「お子さんが小さいうちは時短勤務のほうが良いよね」と言われてしまう。そうすると、「フルタイムで働きたいと思う私は悪い母親で、子供は可哀そうなのかな…」と思ってしまう方もいるかもしれません。

周りの人が善意で言ってくると、違和感を持つよりも先に「自分が間違ってる」と感じて、自分の価値観ではなく、周りの価値観に合わせようとしてしまう人も多いと思います。
最終的には価値観のズレに苦しんで「子どもがかわいそうだから、仕事はやめよう」「仕事をセーブしよう」といった、自分の意志とは別の選択をしてしまう。
「これで私は良い母親になった」と周囲に認めてもらうために。
でも、心のどこかで「諦めた」みたいな、そういう感情が残っていて、仕事に対してモヤモヤした気持ちが生まれてしまうと思うんですよね。

良かれと思って言った発言が、結果的に従業員のモチベーションを下げてしまったり、離職のきっかけをつくってしまう
それは企業にとっても従業員にとってもマイナスですよね。
発言する側も受け取る側も無意識だから、モヤモヤの原因である偏見に気づけずに問題が解決しないまま時間だけが過ぎていくことも少なくないと思います。

その結果、アンコンシャス・バイアスを含む発言を受けた人が、自身がマネジメント側に立った時や、自分のお子さんが子育てと仕事の両立に悩む時期を迎えた際に、同じ過ちを繰り返してしまう悪循環に陥る可能性もあります。
「自分の上司や同僚は子どものために仕事をセーブしていた」「私のお母さんは、子育てのために仕事をやめてくれた」など、アンコンシャス・バイアスを受けた側が、今度は無意識のうちに偏った考え方で物事を判断してしまうようになる。
さらに周りから「あなたのお母さんは、あなたのために自分の仕事を諦めて、あなたのために尽くした”良いお母さん”ね」というような肯定的な意見を聞かされてしまうと「それが正しいんだ」「自分も”良いお母さん”にならなければ」と感じて、その偏見はさらに深まってしまうんじゃないでしょうか。

この再生産の構造は差別と似ていると感じています。
誰も意図的に「差別しよう」と思って差別してるわけではなくて、人生の中で知らず知らずのうちに影響を受けてきた価値観が、世代を超えて脈々と続いてる。
こういった無意識の偏見の積み重ねが差別の根底にあるんじゃないかと思います。

上原:
そうですね。誰も自分は差別をしているとは思わないものですが、 自分の中の思い込みや経験からくるアンコンシャス・バイアスが、知らず知らずのうちに差別的な状況を生み出してしまうことがあるんだと感じます。
アンコンシャス・バイアスの出所は人それぞれだからこそ、自分のバイアスに気づくことが難しいのかもしれませんね。

一人ひとりが「違和感」を持つことが大切

上原:
改めて意識してみるとアンコンシャス・バイアスは職場だけじゃなく、子育てをする環境や、世代や性別が違う親・夫婦間の対話の中など、身近なところにたくさんありますね。
実際にアンコンシャス・バイアスをなくすためにはどんなアプローチが有効なのか、解決策を見つけていくことが今後の大きなテーマだと感じています。

先日も、X(旧Twitter)で、アンコンシャス・バイアスを感じさせる投稿を見かけました。
保育園に子どもを預ける時間について、保育園側から「こんな早い時間にお子さんを預けるんですか」「お迎えの時間が遅くてお子さんがかわいそう」といった趣旨の発言をされたというものでした。
その投稿を見て、「日本社会に貢献しようと仕事を頑張っている人たちにそういう発言をして、意欲を削ぐのは本当にやめてほしいな」と思うと同時に、こういった発言は、おそらく男性よりも女性に対して向けられやすいものなんだろうなと感じました。

田中:
逆に男性の場合は、子どもが生まれたことを職場に報告すると「頑張って稼がなきゃね」「出世しなきゃ」といった言葉を言われる。
時代が変わっても、いまだにアンコンシャス・バイアスがいたるところで続いていることに切なさを感じます。

アンコンシャス・バイアスに悩んだり苦しんでいる人は多い一方で、どのように解決していけばよいか悩む人も多いですよね。
私の考えですが、まずは「これはバイアスなんだ」と一人ひとりが気づくことが大切だと思います。
「無意識のうちに相手に潜入感や偏見を持って、自分の考えを伝えているかもしれない」と自覚するだけで、気づけることも多いのではないかと。

「自分が思っていることは、実は当たり前じゃない」「相手はそう思っていないかもしれない」という風に、「誰もが自分の考えに同意するわけではない」っていうことを意識すると、それだけでも変わっていくのかなと思います。

上原:
そうですね。とくに企業や組織の中では、「 場面ごとに何に気をつけて発言すべきか」という意識が浸透しつつあると思います。

それこそ昔はセクハラとかパワハラという言葉が当たり前のように飛び交っていた時代もありましたが、今では「それらの発言がなぜ問題になるのか」というところまで理解が深まってきていますよね。
そういった流れの中で、時代とともに価値観が変化し、多様化しているんだと感じます。

昔とは違う現代の状況を理解して、時代に合わせた考え方や振る舞いをしていく
そういった意識を持って実践できたらいいですね。

多様性の解釈は人によって異なる

田中:
「女性に対して」とか「子育てをしている人に対して」という風に、身近な個人に対するアンコンシャス・バイアスは、比較的わかりやすいものだと感じています。
一方で、自分たちの所属する企業や組織に対するアンコンシャス・バイアスは、たくさん存在するものの、なかなか気づきにくいものだと感じる出来事がありました。

少し前に、とある大企業の会長さんと「ダイバーシティ(多様性)」の話をしたんです。
70歳くらいの方で、私の話に対して「なるほど」とすごく共感してくださいました。
そして、「うちもなかなかダイバーシティがあるんだ」とおっしゃられたんですね。
詳しく聞いてみると、「役員や社員はみな、出身大学がどこかに偏っているということもないし、いろんな経験を持ってる人が多いから、すごくダイバーシティがあると感じている」と。
でも、実際にはその会社の役員の方々は、60歳以上の男性ばかりで、ほぼ生え抜きあるいは関連会社からいらした方しかいなかったんです。

私は、企業や組織において「ダイバーシティがある」というのはそういうことではないと思っていて。
ダイバーシティの解釈が私とは異なるんだ」と感じました。

その会長は、「自分たちの組織は、ダイバーシティがある。だから、自分たちは正常でなんの問題ない組織だ」「自分たちはすごく闊達で良い組織が作れている」と、認識されているんですね。
お話しつつ、「ちょっと話が噛み合ってないな」と感じましたが、結局その時は何も言えず…。
「なるほど」と言って話を終わらせてしまったのですが、その価値観のズレに内心驚きました。

こういった自分たちの企業や組織に対する思い込みは、実はたくさんあるのではないかと思っています。

組織はどこまでの多様性を受け入れるべきか

上原:
そうですね。一方で、しっかりと意識しないと自分にもブーメランが返ってくる話だなと感じました。

これまで自分がいた組織や今のチームを振り返っても、ある面からみると多様性があると言えるかもしれない。
たとえば、男女比率だと多様性があるかもしれない。一方で、年齢だと比較的30代、40代に偏っているとか。

バックグラウンドや住んでる場所など、どこかに自分が気づいていない「偏り」があるはずなので、多様性がある状態だと思い込んでいること自体が、まさにアンコンシャス・バイアスですね。
それは自分の知っている範囲での多様性でしかないはずなのに。
実はアンコンシャス・バイアスな考え方で自分の企業や組織を見ているかもしれないと、意識を持つことは大切だと思います。

一方で、自分の企業や組織は今現在、「どこまでの多様性を受け入れられるのか」という考え方もしていかなければいけないと感じます。
たとえば、今はスタートアップのフェーズだから、主要メンバーとなる人材は、仕事に対するスタンスや労働意欲が、ある一定以上の条件をクリアできる人じゃないと雇うことができない。
けれど、別の部分ではもっと条件の範囲を広げていろんな人に働いてもらうとか。
そういった線引きを意識していく必要があると田中さんの話を聞いて、自分自身の反省としても思いました。

田中:
たしかに組織において、どの程度までのダイバーシティが必要なのか(受け入れるのか)というのは、悩ましいところですよね。
組織のカルチャーに全く合わないという人も実際にはいるわけですから。
「自社にフィットしないとしても多様性を重視して許容する」ということがダイバーシティなのかというと、それは企業や組織としての目的やあり方を逸脱してる部分があると感じます。

やはり企業や組織として考えた時に、採用する人材に組織全体で協力してひとつの目的に向かっていく意思があるかないかというのは、すごく大切な要素の一つだとは思うんです。
だからといって、「自分たちは今の状態で正常だ」と認識するのは、裏を返すと「自分たちはこれ以上、多様性を持ちたくない」という気持ちを肯定したい気持ちが潜在的にある状態なんじゃないかとも思います。

極端な例ですが、「自分たちの価値観と合わない人がいたら組織として成り立たない」と決めつけて、自分たちの正しさを証明するものだけを採用して、それ以外のものを排除しようとする。
あるいは、他社の事例でも、うまくいってるものに対しては共通点を探して「自分たちにも当てはまる」。
そうじゃないものは、自分たちとの相違点を探して「自分たちは違うんだ」と判断してしまうとか。

それは、「企業や組織として見た時に、本当に正しい判断なのだろうか」「アンコンシャス・バイアスな考えで企業や組織の成長やチャンスを妨げる弊害になっていないだろうか」と改めて見つめ直す必要があると感じます。

ここまでの例は、ビジネスや物事の意思決定をする際に、どんな人でも陥りやすいバイアスではないかと思います。

アンコンシャス・バイアスにしても、ダイバーシティにしても、大切なのは言葉だけで捉えて自分の都合の良いように解釈しないことではないでしょうか。
目の前にいる人の声に耳を傾けて、先入観を持たずにさまざまな価値観と向き合っていく意識を持てると良いですね。

【番組概要】
ワーキングペアレンツのための転職サービス「withwork」プレゼンツ、キャリアとライフをトレードオフにしないラジオ、略してキャラトラ。このポッドキャストでは、子育てや介護をしながら働く皆さんに、転職ノウハウや、キャリアとライフの両立ハウツーを中心に、多種多様なテーマでお送りしています。

▼出演者
上原達也(XTalent代表取締役)
田中優子(XTalentアドバイザー)

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