(※2025年3月6日放送の「#キャラトラ」を記事化したものです。)
こんにちは!ワーキングペアレンツのための転職サービス『withwork』です。
現在進行形で企業経営に携わる、 XTalent代表・上原達也とXTalentアドバイザー・田中優子が、 男女やケア責任のありなしに関わらず、誰もが活躍できる組織運営について雑談していきます。
今回のテーマは、「アメリカで反DEI(多様性、公平性、包摂性)」の流れが起きる中、日本ではどうなる?」です。
DEIのレベル感が異なるので、それを一緒に語るのは乱暴
上原:
アメリカではトランプ大統領の就任式後、マクドナルドやMetaがDEIの看板を降ろす動きが進んだことで、「やはりDEIは行き過ぎてたんじゃないか」「今までの反動が来ているのではないか」といった意見が出てきています。もちろん全ての企業で起きている動きではないという前提はあるものの、アメリカを含む海外の流れと、それを受けて日本は…?といったことを、今回はお話したいなと思います。
田中さんは、率直にこういった動きを見て、どうお考えですか?
田中:
アメリカのDEIと日本のDEIではレベル感が全然違うので、それを一緒に語るのはなかなか乱暴に感じます。
上原:
アメリカでの反DEIの流れを報じるニュースに対して、日本でも「ほら見ろ」とか「DEIなんてやっても意味がない」といった意見が一定数みられました。でも、「アメリカと日本ではそもそも違う」ということですよね。具体的に、どういった点が異なりますか?
田中:
例えば、ジェンダーの観点でいうと、アメリカでは女性の管理職比率は約4割と、日本の1割に比べて、すでに高いわけですよね。
また、アメリカでは、政策的に一定の基準を設けて、人種や宗教など特定の集団に対する差別をなくそうとしています。いわゆる「アファーマティブアクション(※1)」と言われる、人権問題に関連する動きですね。一方で、日本の場合、宗教や民族にそこまで多様性がなく、なかなか論点にも挙がりづらい部分です。
(※1)日本語では「積極的差別是正措置」とも訳される。過去に差別や不利益を受けてきた特定の集団(例:人種的マイノリティ、女性など)に対して、教育や雇用の機会を拡大するための取り組み。
なので、「女性や多様なバックグラウンドを持つ人を社内で活用できているか」という観点において、「日本はまだアメリカと比較できるようなステージには立つことができていない」というのが、まず第一にあると思います。
上原:
マクドナルドの発表の内容を聞いていると、「女性の管理職比率が一定のレベルに達したため、掲げる内容を今後変えていく」といったメッセージにも受け取れました。ニュースの「反DEI」という見出しだけを見て、「ほら、日本でも女性活躍とか意味ないよ」と言うのは、少しズレた捉え方をしているかもしれませんね。
そもそも日本では、人材をうまく活用できていないことが課題
田中:
人権の問題となると、いわゆる「ポリティカル・コレクトネス(※2)」のもと、企業の競争力ではなくフェアネスとしてどういう割合にしなければならないか、といった観点も入ってきます。
(※2)「差別的・偏見的な言葉や態度を避けて、誰にとっても配慮のある表現や行動をしよう」という考え方のこと。
正直、企業の競争力とトレードオフになる要素が0とは言い切れず、だからこそ「どこまでやるのか」という議論は、景気や会社の業績の影響を受けやすいと思います。
ただ、日本の女性活用の問題は、それが「正しいことだから」「人権問題だから」というよりも、そもそも「人材をうまく活用できていない」という話です。それによって辞めていく人がいたり、女性の方が多い会社でも管理職となると女性の割合が非常に少なくなってしまったりする。働きやすさや評価の面での課題や会社としての歪みを示しているように感じます。
そもそも、このDEIの議論を「やる必要のない人権問題だ」と捉えている方からすると、「競争力を犠牲にしてまでこんなことをやる必要あるの?」という意見になるのかもしれないですね。そういった方は、人材を活かして競争力を作るということ自体をあまり信じてない、あるいは重要な要素とは思ってない気がします。
ただ現実として、それでは非常にもったいない。まずはそこが議論のスタートラインだと思います。
上原:
「人」という資本を活かす競争戦略と捉えるのか、そもそも違うものとして捉えているのか、で食い違ってくるところですよね。
田中:
政治だと、女性議員の比率を増やすなど、フェアネスの観点から議論しているものもあるとは思います。ただ、企業においてはすでに働いている女性は多いので、新卒で男女が同じくらいの比率で入社しているのに、入社後数年経ってからの賃金格差や管理職比率差が生まれているという構図には、違和感を感じますよね。
もし、男性の方がそもそも優秀でより活躍してくれると本当に思うのなら、新卒の時から比率が偏ると思うんです。新卒で普通に採用したら半々になるのに、なぜそこから数年経つとこんなに差を生んでしまうのかというと、優秀な人材をうまく活用できてないとしか言いようがないと思います。
いろんな仲間を受け入れる組織の方が、良い仲間と最短でゴールに向かえる
上原:
企業にとっての機会損失が起きているから、それを何とかした方がいいという議論ですよね。
ベンチャー / スタートアップ企業の経営者が集まるカンファレンスなどに行くと、「スタートアップ企業には多様性は不要である。なぜなら、いろんな考えの人がいたらまとまらないから。スタートアップ企業は同質性でスピード感を出すのが大事で、多様性というのは大企業の話である」といった意見が一定数あるように感じます。
これも捉え方が違うと思っていて、そういった意見の人は、多様性とはとにかくいろんな意見の人を集めて受け入れましょう、という話だと思っているんですよね。そうではなくて、企業としてはあくまでもミッションやビジョンの実現に向けて必要な仲間を集めるというのが最優先であるべきだと思うんです。
ただ、その集めた仲間の中に、勤務時間に制約があるとか、他に同じ属性の人がいないから馴染みにくいとか、そういうことが起きると、本来は一緒に活躍してミッションを実現する仲間になれるはずの人が仲間になれないという機関損失につながっている、という話だと思うんです。
いろんな仲間を受け入れる組織でいる方が、良い仲間と最短でゴールに向かえる。それが多様性の話だと僕は思っています。
田中:
スタートアップやベンチャーという言葉の定義がかなり広いので難しいですが、シード期のまだプロダクトもなく社長と数人というようなフェーズであれば、事業を立ち上げるのに最適な人をただ選ぶことになると思うので、属性的な多様性があるかどうかが結果論でしかないのは仕方ないようにも思います。
ただ、そこから成長して50人、100人、1,000人と従業員が増えていくと、当然いろいろな人をうまく活用していく必要が出てくるので、同質性だけで選んで優秀な人材を自ら手放すのはもったいないと思いますね。
労働力不足の中で、「競争戦略のために多様な人材を活かす」という発想は不可欠
上原:
企業のフェーズに合わせながら、競争で優位に立つための議論でもあるという捉え方をしていくべきですね。
ここで、参考になる事例を2つあげたいと思います。
1つは、今となっては誰もが知るメガベンチャーの初期フェーズの話ですが、エンジニアの方々がスタートアップにしては年齢層が高かったんです。人事の方が言うには、20~30代だと他社と人材の取り合いになるが、それ以上の年代の方だと採用できることが分かったため、その層をターゲットに優秀なエンジニアを採用したとのことでした。年齢層の同質性を排除したという例ですね。
もう1つは、ベンチャーキャピタルから10億円以上調達しているような企業なのですが、他社が苦戦している優秀なエンジニアの採用に、当社は全く困っていないとおっしゃっていました。理由は、日本人ではなく外国籍の方を採用しているからで、日本で働きたい海外の方は非常に多いため、募集を出すとたくさん応募がきて全く困らないそうです。もちろんそのために英語を使える組織にする、多様なカルチャーを受け入れる組織にする、という土台は必要になりますが、そのおかげで優秀なエンジニアチームを獲得でき、技術面で優位性が出たとのことでした。
多様性って、まさにこういうことだなって思うんですよね。
田中:
メルカリは、インドのエンジニアの方を採用して日本に来てもらっていますし、ラクスルはインドに開発拠点を置いていますよね。日本人の優秀なエンジニアは不足していますが、海外にはいるんです。「社内のスタッフは日本語しか話せないし…」と悩むのではなく、優秀な人を採用して競争力を作っていく方が重要で、それができるようにカルチャーを変えて、アジャストしていく必要があるんですよね。日本人スタッフが英語を喋ればいいだけですし、喋れなくても読み書きができれば十分かもしれません。バックグラウンドが違うスタッフがいても、「スピード感を持って力を発揮できるようなコミュニケーションのやり方を社内で開発していこう」という風に、会社の風土ややり方の方を合わせていく。「人が先にあって、やり方は後から」という発想で競争力を作ってる会社もあると思います。
「自分たちの既存のやり方に合う人だけを採用したい」という考えだと、そのやり方が時代やマーケットに合わなくなったときに採用できなくなります。
上原:
日本においては圧倒的な労働力不足の中で、「競争戦略のために多様な人材を活かす」という発想は不可欠ですね。
今回は、アメリカの反DEIの流れを受けて議論してきました。元々アメリカの反DEIの流れを見て日本でも同じことが起きると決めつけるのは違うのではないかと感じていたので、非常に良い整理ができました。ありがとうございました!