近年、共働き世帯の増加や男性の育休取得率の向上などにより、父親の家庭参画への関心は年々高まっています。
一方で、社会の変化や個人の価値観のはざまで、悩みや葛藤を抱える男性も少なくありません。
こうした状況を受け、XTalentは「父親たちのリアルな声を社会に届け、共に学び、未来を描く」ことを目的に、国際男性デー2025(11月19日)に合わせて全4回のオンラインイベントを開催しました。
本記事では、第1回の様子を紹介します。
<全シリーズ>
・第1回:「働くパパのリアルが集結!令和の父親から見た課題とこれから」
・第2回:「受験戦略家・長谷川智也氏に聞く!我が子の中学受験どうする?父親の関わり方」
・第3回:「男性育休の“その後”を支える企業の挑戦 〜『仕事と家庭を両立できない』を理由とする離職を防ぐには〜」
・第4回:「40代からの人生再設計『父親たちのミッドライフクライシス』」
<イベント概要>
・開催日:2025年10月8日(水)
・主催:XTalent株式会社
・共催:Daddy Support協会、パパ育コミュ、一般社団法人Papa to Children、NPO法人ファザーリング・ジャパン
▼スピーカープロフィール
登壇者紹介
上原達也(以下、上原):
本日モデレーターを務めるXTalent株式会社 代表取締役の上原達也です。ワーキングペアレンツ向け転職サービス「withwork」を運営しています。
プライベートでは、10歳、7歳の2児の父です。起業のきっかけは、26歳で第一子が生まれた当時、ベンチャー企業に勤めていたのですが、まだ男性育休という言葉が一般的ではないハードワーク環境下にいまして。自分自身、両立に悩んだ原体験から「キャリアとライフをトレードオフにしない選択肢を当たり前にしたい」という思いでwithworkを立ち上げました。
平野 翔大氏(以下、平野):
一般社団法人Daddy Support協会代表の平野翔大です。
産業医 / 産婦人科医として、ビジネスパーソンの健康管理やメンタルヘルスに関わる傍ら、厚生労働省の「共育(トモイク)プロジェクト」の推進委員として啓発活動を行っています。管理職や行政の支援者向けの研修なども行っています。
三田村 忠仁氏(以下、三田村)、
一般社団法人Papa To Children(通称:PtoC)の代表理事の三田村忠仁です。
ふだんは会社員をしながら3人の男児を育てています。元々は上原さんと同様にハードワーカーだったのですが、第一子の妊娠を機に働き方や生き方を変えようと思い立ちました。男性ってなかなか弱みを吐けなかったり、かっこつけてしまったり、素直になれなかったりしますよね。それによって、妻と喧嘩してしまったり、子どもに変な怒り方をしてしまったり。当時、「仕事も家族も大切にしたい」といった価値観が周囲に共感されない中で、同じ悩みを持つ仲間と出会ったことをきっかけに、「父親たちが安心して本音を話せる場所を作りたい」とPtoCを立ち上げました。
森島 孝氏(以下、森島)、
NPO法人ファザーリング・ジャパン理事/九州 代表理事を務める森島孝です。
大学1年生と高校1年生の子どもがいます。自分の会社をやりつつ、基本的にはフリーランスとして、様々なNPOの支援をしています。かつては、私もワークライフバランスを無視して働いていた時代がありましたが、体調を崩したことをきっかけに、「せっかく結婚して家族もいるのに自分は何をしているんだろう」と生き方を見直しました。悪化していた夫婦関係もファザーリング・ジャパンとの出会いにより、大きく改善しました。病気になる前は、「家族のため、子どものために、男だから働かなければならない」と思っていたのですが、今振り返ってみると「自分のため」だったなと思います。今は、豊かで充実した人生が送れていると実感しています。
シカゴリラ氏(以下、シカゴリラ):
パパ育コミュ代表のシカゴリラです。
ふだんは会社員をしながら、3人の子どもを育てています。第1子の出産のタイミングで、妻が産後うつになりまして。それまでも、仕事が多忙な中、土日は育児を頑張っていたつもりだったのですが、なかなか戦力にはなれておらず、「次は絶対に育休を取ろう」と決意し、第2子、第3子のタイミングでは1年ずつ育休を取りました。パパ育コミュ立ち上げのきっかけですが、ちょうどコロナ禍の2019年に第2子が生まれて、外出制限で社会との断絶を感じた経験から、2020年6月にオンラインコミュニティ「パパ育コミュ」を立ち上げました。
トークテーマ①:父親を取り巻く現状(ポジティブ/ネガティブな変化)
上原:
コロナ禍で父親を取り巻く環境は変化したように感じています。様々な企業や団体と話す中でも、みなさん口をそろえて「この数年の変化がすごい」と言います。withworkでも2023年ごろから一気に男性ユーザーが増えました。
森島:
若いパパたちと話すと、今は育児を「やる前提」なんですよね。当たり前のように育児をする、そのうえで「どうしたらいいですか」といった相談がきます。それに加え、以前は「子育て」というと重きを置かれていたのが「子どもの面倒をみること」だったのですが、今は家事も含めてちゃんと考えるようになってきたように思います。
三田村:
下の子が今1歳半で、上の子と10歳離れているのですが、様々な変化を感じます。上の子の時は、保育園の送り迎えをするお父さんは僕1人だったのですが、今は5:5くらいです。在宅勤務が増えたりと、生活様式が変わってきていると感じます。一方で、スーツを着たお父さんも見かけるので、役割分担が夫婦内で自然となされるようになってきているのでしょうね。
シカゴリラ:
2020年にコミュニティを立ち上げた時は、周囲を見回しても男子の育休取得率も数%でしたが、今は40%くらいまで上がっています。幼稚園の送迎コースのリーダーをやってるのですが、お父さんの割合が明らかに増えました。一方で、そのリーダー会議の場では、お母さん20人のうち、お父さんは1人だったりと、まだお父さんが進出できていない部分はあるなと感じています。
上原:
みなさん、日常の中で様々な変化を感じられているのですね。男性育休取得率もここ数年で向上しましたが、国や団体による働きかけも大きかったのではないでしょうか。厚生労働省の「共育プロジェクト」の推進委員をされている平野さんにもご意見を伺いたいです。
平野:
国はだいぶ先を見据えて動いているなと思っています。働き方改革や、育児・介護休業法の改正があったりと、企業としても取り組まざるを得ない状況になってきていると感じます。都会と地方の差はありますが、取り組むコンセンサスはできたと思いますね。企業目線でいうと、これまで女性従業員は産後1年以上会社にいなかった一方で、男性は育休取得後だいたい1〜2ヵ月で復帰します。男性育休取得者が増えたことにより、ある程度保育園に預けられる体制になってから戻ってくるという大前提が、この流れで崩れたんですよね。新生児や乳児がいる家庭の従業員が会社にいるという現実を企業が認識し始めたんです。そうすると、企業においても両立できる体制を作らなければならない。共育プロジェクトは、実は「企業も家庭も脱ワンオペ」を掲げているんですね。企業でいうと、仕事における脱ワンオペです。お父さんが仕事でワンオペをしていたら、当然家庭に入れない状況になってしまう。企業も家庭も両方解決していく必要があるよねといった流れで、2015年と2025年の育児・介護休業法の改正がありました。先々を見据えた動きの1つだと思います。
森島:
「都会と地方で差がある」という話が出ましたが、ファザーリング・ジャパン九州の代表理事を務める中で、それは感じます。都会は「育休を取るかどうかを考える」が前提ですが、地方に行くほど「育休は撮るものじゃない」という男性がまだ多いです。女性側も「もちろん取らないよね」という前提があったりと、個人の価値観の変化も地域によって差があります。
平野:
日本各地の企業をみていますが、やはり全然感覚が違いますね。育休取得率の調査では、全国平均が30%だった時、東京の都市部は70%くらいでした。東京の人口が多いので全国平均を引き上げている状況です。地方と中小企業は1、2歩遅れていると思います。
上原:
なるほど。この「一気に変わりましたね」という変化は、自分の身の回りで感じるものの、東京の比較的規模の大きい企業であったり、価値観の新しい企業で起こっているもので、エリアによっては変わるということは改めて意識しなければなりませんね。
トークテーマ②:父親たちが直面している課題
上原:
父親たちを取り巻く環境は変化しつつあるものの、様々な課題も浮き彫りになってきたのではないでしょうか。
シカゴリラ:
父親の仕事に関する役割はあまり変わらない中で、家庭における役割が増えてきています。会社も配慮はしてくれますが、既存の仕事量に家事育児が追加され、板挟みになっている方も多い。仕事も育児も一生懸命頑張って疲弊しているお父さんは少なくないです。2020年、パパ育コミュを立ち上げた際に、育休を取得した20人ほどの話を聞いたのですが、半数近くが精神的に辛い時期を経験していました。こうした頑張っているお父さんたちが評価されることは現状あまりなく、周囲からは男性が育児に重きを置くことに対して「どうなってるの?」という目でみられるのは、課題だと感じています。
上原:
半分笑い話のようで笑えない話だなと思ったエピソードを聞いたことがあるのですが、ある男性が上司に子どもが生まれたことを伝えたら「単身赴任をさせてあげようか」と言われたそうです。「どういうこと?」となりますよね。よくよく聞くと、「単身赴任することで思いっきり仕事に打ち込めるよね」といった意図があったようです。
三田村:
世代間ギャップとはこのことなのでしょうね。そこに違和感を感じるようになってきたのは「良い時代になったな」と思う一方で、「仕事も家庭も両方成果を出さなければならない」と足し算思考になりスパークしている方が多いと感じます。「妻の復職が怖い」といった声もよく聞きます。
平野:
本当にその通りで、「育児時間を増やすということは、何の時間を減らすの?」という議論がすっぱり抜けているんですよね。でも、これは別にお父さんだからではなくて、お母さんにも起きていたことで。お母さんが仕事に復帰するとなった時に「じゃあ、その仕事の時間はどうやって作るの?」という議論がされないままに女性活躍が進んだ結果、お母さんが両立できなくなってメンタル障害になったり、保育園の問題が出てきたりしていました。まったく同じ流れが今、お父さん側で起こっているように思います。やはり、お父さんもお母さんも周りをちゃんと巻き込んでいかないと、育児との両立は成立しません。増やすだけではなく、「何を引き算すべきか?」は大事にしてほしいです。
森島:
本当の意味での企業の理解が進んでいないように感じます。従業員も制度があるとはなんとなく知っているけど、その使い方がよく分かっていなかったり。男性育休に関しても、世の中の流れ的に企業側は「取らせないといけないよね」といった雰囲気にはなってる一方で、男性育休取得者からはよく「会社は休め休めと言います。でも、会社のことが気になって安心して休めないんですよね。」といった不安の声を聞きます。きっと企業側も、メディア等から様々な言葉がどんどん入ってきて「どうしたらいいのだろう」と悩まれているのだとは思います。
上原:
企業側の問題もあれば、個人の内面の問題もありますよね。後者でいうと、以前「マッチョイズム」について研究している方と話をしたときに、「なるほどな」と思ったことがあります。昔はかっこいい父親像が、「大黒柱としてバリバリ働いて稼ぐ」だったのですが、今は「仕事も育児も家事も完璧にできる」といったイメージが強くなりすぎて、当事者のプレッシャーになっていると言った話でした。
三田村:
まさにその課題に直面した結果、PtoCができました。「いつまでこの鎧を着ればいいんだろう」と鬱々した気持ちの中で、男同士の鎧を脱いだ場所を作ろうとなりました。
平野:
そういった意味で、ファザーリング・ジャパンさんが掲げている「父親であることを楽しもう」は大事な考え方だと思います。「イクメンの悪しき変化」という研究結果をまとめている研究者さんもいますが、イクメンという言葉が広まる過程で、「お金も稼げて、パートナーのことも気遣えて、育児も完璧にできて」といった理想像が形成されて、ある種の押し付けのような形となってしまった。今、イクメンという言葉が使われないようになっているのは、そういった背景があります。悲しいことだと思いつつ、次の道を探っていくしかないと思います。「”お父さん”ではなくて、”親”としてどうありたいか」という話にシフトできると、より健全な議論になるのではないでしょうか。
森島:
ファザーリング・ジャパンの活動を通じて思うのは、「自分のため」の視点が抜けている人が多いなと。「⚪︎⚪︎しないといけない」と、完璧を目指すのはしんどいですよね。そうした中で、日々の自身の喜びにもちゃんと目を向ける。「子どものこんな一面や表情が見れて嬉しかった」「成長を感じられて良かった」など。仕事ももちろん大事なのですが、家族の仲が良いと絶対に仕事でもパフォーマンスが出るんですよ。能力が上がるというよりは、安心した場所があると、会社に対しても強くなれるんです。悩んでいるお父さんたちにはよくこんな風に言ってます。「悩むのだったら、もう家庭に振り切れ」と。家庭がうまくいくと、場合によっては転職だって絶対に応援してくれます。「もうそんな会社辞めちゃったら。私も稼ぐから」みたいな。そうすると、会社に対してもっと強気にいくこともできて、組織を変えることもできるかもしれません。
トークテーマ③:これからの未来に向けてできること(社会、職場、行政、個人)
上原:
これまでのお話で、ポジティブな変化もあれば、課題もあることが分かってきました。これらの課題解決に向けて、どのようなことが考えられるでしょうか。
三田村:
PtoCでは、「持って行き場のない話を持って来てくれ」とよく言っています。家庭でも職場でも話せない話ってありますよね。小さな弱音や愚痴を持ち寄って、共感し合いつつ、解消していく。引き続き、PtoCでは安心してお父さんたちが話せる場を作っていきたいと思っています。バーやスナックのような「サードプレイス」的な存在になりたいです。
シカゴリラ:
フラッと自分の思いを話せたり、同じような思いをしている人がいることを知るだけで、気持ちも楽になりますよね。日本は「こうあるべきだ」という型があって、そこから外れると「除け者」になり、ぐっと評価が下がるといった風潮があります。男性が育児に重きを置くことが理解されずに、辛い思いをしている人も多いと思います。一方で、今はまさに「父親のあり方」が変わってきている過渡期だと感じています。様々な「型」に触れながら、それぞれが置かれている環境や自分の価値観に合った「自分なりの型」を探せる場所が増えるといいですね。
森島:
今まで以上に企業へアプローチして、制度の正しい理解を広める必要があるなと感じます。行政に関しても、父親向けの講座やイベントをもっとやるべきだと思っています。ふだん、行政関連の仕事もやっているのですが、父親向けの講座ってなかなか人が集まらないんですよ。そうすると、行政もやらなくなってしまう。たとえ数人しか集まらなくても、継続的な活動をしてほしいと思っています。
また、長期的な視点で言うと、大学生や高校生といった若年層への教育も重要です。男女関係なく、「仕事もしなければならないけど、家庭も大事なんだよ」ということを伝えていく必要があると思います。
平野:
行政の認識の遅れも課題です。これまで女性の育児支援は行政が担ってきましたが、男性向けの枠組みがありません。行政は、まだまだ企業がやるというスタンスを強いていると感じます。企業側の研修や行政の支援者に向けて研修をする中で思うのは、1年の中で企業内で子どもが生まれる従業員の数はそう多くはないんですよね。個人への支援を考えるとコストパフォーマンスの問題がある中で、行政の役割は本来は大きいんです。でも、法律も何もないので、やる根拠がないというのが現状なんです。もう一つ大きな問題は、行政側に「お父さんはお母さんのサポーターである」という考え方が抜けきれていないことですね。企業にだけ押し付けるのではなくて、どうすれば企業がうまく動けるかといったサポートも含めて、草の根活動とトップダウンの流れをうまくマリアージュさせていく必要があると思います。
最後に
今回のイベントでは、父親を取り巻く環境の変化と課題、そしてその解決に向けた様々なアプローチが共有されました。男性育休取得率の上昇や家事・育児参加の増加など、社会は確実に変化している一方で、地域差や企業規模による格差、個人の価値観と社会の期待のずれなど、多くの課題も残されています。各団体の取り組みは、まさに現代の父親たちが直面している「リアル」な課題に対応するものであり、今後の父親支援の方向性を示唆するものでした。









