2025.12.26

【国際男性デー2025】第2回「受験戦略家・長谷川智也氏に聞く!我が子の中学受験どうする?父親の関わり方」開催レポート

#中学受験
#教育
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近年、首都圏を中心に右肩上がりに受験者が増え続け、もはや「大ブーム」とも言える状況になっている中学受験。しかし実際の現場では、塾の宿題の多さや親のフォロー負担、子どものメンタルケアなど、様々な課題が山積み。特に共働き家庭では、どのように子どもを支えていけばよいのか悩みは尽きません。

2025年の国際男性デーに合わせて開催した本イベントでは、受験戦略家の長谷川智也氏と中学受験を経験した父親3名をお招きし、子どもの中学受験における父親の関わり方について議論しました。

<全シリーズ>
・第1回:「働くパパのリアルが集結!令和の父親から見た課題とこれから」
・第2回:「受験戦略家・長谷川智也氏に聞く!我が子の中学受験どうする?父親の関わり方」
・第3回:「男性育休の“その後”を支える企業の挑戦 〜『仕事と家庭を両立できない』を理由とする離職を防ぐには〜」
・第4回:「40代からの人生再設計『父親たちのミッドライフクライシス』」

<イベント概要>
・開催日:2025年10月22日(水)
・主催:XTalent株式会社
・共催:Daddy Support協会パパ育コミュ一般社団法人Papa to ChildrenNPO法人ファザーリング・ジャパン

▼スピーカープロフィール

中学受験のメリット・デメリット

田中優子氏(以下、田中):
長谷川先生、よろしくお願いいたします。まずは、中学受験のメリットとデメリットについて教えてください。

長谷川智也氏(以下、長谷川):
中学受験のメリットとしてよく言われるのは、高校受験を避けられることで大学受験に向けた準備期間を確保できること。どんどん先に進んだ内容を学べるため、とくに数学では大学受験に向けて有利な状況を作れますね。また、中学受験が流行したことで公立中学から上積みの層が抜けてしまい、学習環境や部活動などの面でも私立中学の方が良くなっているという現状があります。

デメリットとしては、塾によってはカリキュラムが非常にハードで「ペースメイクはするけど、できるようにするのは家庭の役目」という風になっているため、家庭の負担が非常に大きいことです。特に共働き家庭が増えている現代では、これが大きな課題になっています。

田中:
たしかに塾の負担が家庭に及ぶことで親子関係に問題が生じることもありますね。それは今日のテーマである「父親と子どもの関わり方」にも関係してきそうです。

長谷川先生から見て、中学受験というプロセスを経験することにはどのような意味がありますか?

長谷川:
親子で一緒に絆を深めて受験に向かえるのは中学受験だけという特徴があります。高校受験や大学受験では子どもに主導権が移っていきます。一緒に戦える貴重な機会であり、親子ともに成長できる期間です。10年後に振り返ると「貴重な2〜3年だった」と感じる方が圧倒的に多いですね。

もちろん今は当事者として必死な状況だと思いますが、子どもと一緒に目標に向かって頑張れる意味では、日本では中学受験だけの特別な機会かもしれません。その中で子どもの自主性や自走を目指していけば、大きな成長につながると思います。

中学受験の最新動向と現状

田中:
長谷川先生は、年間、数百件の中学校受験をするご家庭のコンサルをされていますよね。昔と今とで、中学受験をするご家庭にも変化はありますか?

長谷川:
10年前と比較して、圧倒的に共働きの家庭が増えたと感じています。昔は、夫が稼いでいたら妻は専業主婦という家庭も多かったと思いますが、今は裕福な家庭でも妻が働いているパターンが少なくないですよね。

田中:
よく「30年前の中学受験とは難易度が全然違う」と言われますが、実際はどうなのでしょうか?中学受験の最新動向と現状について教えてください。

長谷川:
中学受験は今、首都圏や関西の都市部では大ブームとなっています。少子化が叫ばれる中でも、首都圏では受験生の数が5万7人を超え、右肩上がりに増加している状況です。昔は開成や麻布など一部の意識が高い優秀な子が目指すだけでしたが、今は普通の子も中学受験に参加するようになっています。そのため競争率が高まっていますね。

それに対応するように、大手塾は「方法」をたくさん教えるスタイルになっています。有名中学の過去問が出ると数年後には問題を解くための「パターン」が出来上がっていて、暗記でも点数が取れるような状況に。それに対応するように、一部の上位校は、そうした詰め込みで対策してきた子を弾くために、より思考力が問われる難問を出すようになってきています。

さらに大学入試の共通テストも変化していて、文章量が2〜3倍に増えるなど長文化が進んでいます。中学受験もそれに合わせて変わり始めていて、読書などで思考力や考える力をつけることが今後ますます重要になってくるでしょう。

受験期における父親の関わり方の傾向と効果

田中:
様々なご家庭を見てこられた長谷川先生から見て、中学受験期の父親の理想的な関わり方はどのようなものでしょうか?

長谷川:
10年前と比べると、受験に関わるお父さんは明らかに増えています。以前は「お母さんが対応して、お父さんはスポンサー的な存在」というパターンが一般的でしたが、最近はむしろ「お父さんとしか話さない家庭」や「お父さんが受験を担当している」ケースも珍しくありません。

お父さんの良い点は「長期的な視点」を持っている方が多いことです。お母さんは目先の次のテストばかりに気を取られている方が少なくありませんが、お父さんの方が冷静で長い目で見てらっしゃるケースがよく見受けられます。その特性をうまく活かしていただきたいですね。

一方で、ちょっと心配になるケースもあります。なぜか「娘とお父さん」という組み合わせで見受けられがちなのですが、お父さんが過剰に関わるケースです。仕事のマネジメント手法を子どもに当てはめてしまう「Excelお父さん」や「PDCAお父さん」です。女の子の場合、それをされると”テンション”が下がってしまい、うまく伸びないことが多く…。この点は注意が必要です。子どもの疲れやメンタル面にも目を向けて、気持ちを上げていくことを意識してほしいと思います。

実体験:成功・失敗事例から学ぶ「父親の関わり方」

田中:
我が子の中学受験を経験した、父親3名に実体験を伺っていきます。

■ Sさん(中2女子のパパ)の場合

田中:
お子さんの中学受験はいつ頃から考え始めたのですか?

Sさん:
特別早くから決めていたわけではなく、普通に地元の公立小学校に通っていました。将来の夢や海外に住みたいかなど、漠然とした話をする中で、「どんな学校がいいだろう?」という話になり、学校見学や学園祭に行くうちに娘のやる気が上がっていきました。

田中:
中学受験期、お父さんとしての役割はどのようなものでしたか?

Sさん:
テストの結果の一喜一憂に巻き込まれないよう、長期的な目線に立つことを自分の役割だと考えていました。最初は全然自主的に勉強するタイプではなかったので、勉強の習慣づくりから始めました。子ども部屋はあるのですが、勉強はダイニングでするなど環境づくりを意識しましたね。

田中:
モチベーションが低下した時はどう対応されていましたか?

Sさん:
塾の先生に、「志望校の門の前まで行く」ことを勧められたので、実践してみたところ、本当に効果がありました。くじけそうになった時に学校に寄ってみたり、学園祭に行ったりすると、先輩たちの姿を見て「頑張ろう」という気持ちになるようでした。自分が言葉をかけるよりも効果的だったと思います。

田中:
受験期における反省点はありますか?

Sさん:
妻と受験に対する考え方が合わず、娘の前で口論になってしまったことです。例えば成績が悪かった時の対応で、妻は「この教科が取れないから次はここを頑張らないと」と短期的な視点になるのに対し、私は「今うまくいっているところを伸ばす戦略もある」と長期的視点で考えていました。こうした主張のぶつかり合いは、結局子どもを混乱させてしまうので、事前に夫婦で話し合っておくべきだったと思います。

■ Hさん(中1男子と小3男子のパパ)の場合

田中:
世田谷区にお住まいということで、中学受験率が高い地域ですね。受験はどのように決められたのでしょうか?

Hさん:
私も妻も中学受験の経験がなく、初めての経験でした。世田谷区は私立を受ける子が多く、親もびっくりしながら進めていきました。塾に入れたのは親の判断で、相場感が分からない中、スタートが遅れると怖いという不安からでした。息子が大きくなる中で私立受験をするかどうかは後から判断してもらえればと思って始めさせました。

田中:
受験期の夫婦の役割分担はどうされていましたか?

Hさん:
私も妻も子どもに対する圧が強いタイプだったので、同じ目線で向かうと子どもの逃げ場がなくなると感じました。そこで科目を分担し、私は算数と理科、妻は国語と社会を担当するようにし、自分の担当科目でない科目についてそれぞれ褒める役割を担いました。

田中:
受験期における反省点はありますか?

Hさん:
第一志望校の合格可能性が下がった時に、無理にプレッシャーをかけ続けてしまったことです。小6の夏ごろ、偏差値が下がっていく中で「あそこの学校行きたいんだよね、もっと頑張ろう」というコミュニケーションを続けてしまいました。

息子は脚本家になりたいという夢があり、文芸部がある学校に行きたがっていましたが、それのためにあらゆる遊びを我慢してまでやるという覚悟ではなかったんです。自分のキャパを超えた宿題に苦しんでいる状況で、それを考慮できなかったことが反省点です。

■ Wさん(高2女子と小6男子のパパ)の場合

田中:
Wさんのご家庭は、上のお子さんも中学受験されていて、現在下のお子さんが受験生ということですね。

Wさん:
上の子は5年生まで海外駐在で過ごしていたので、帰国後に英語力を活かせるインターナショナルコースがある私立中学を受験しました。下の子は普通に地元の公立小学校に通っていますが、姉が私立中学で充実している様子を見ていたこともあり、自然と受験することになりました。

田中:
ご夫婦での役割分担はどのようにされていますか?

Wさん:
上の子に関しては、妻の方が中学受験に対して強い思いを持っていたので、勉強面はほぼ妻に任せきりで、私は送迎など周辺のサポートが主でした。女の子は、自然と勉強するのにも感動しました。下の子に関しては、Hさんと同じく科目で分担し、妻が算数を、私がそれ以外を見ています。また、妻は勉強を厳しめに見る一方、私はモチベーション面で盛り立てる役割をしています。役割分担は特に話し合ったわけではなく、自然とそうなりました。

田中:
共働きの中で中学受験のサポートは大変ではありませんでしたか?

Wさん:
通っている塾の宿題量は半端なく、全部こなすのはほぼ不可能です。小学校の宿題もあるし、授業を受けただけでは分からないので、週末含めて家で復習する必要があります。2〜4年生までは親がテキストを読み込んで理解した上で教えられますが、5〜6年になると問題が難しくなり、全部真面目にやるのは難しくなります。

そこで我が家はある程度割り切って、メインで通っている塾の宿題をさらに復習してくれる塾を利用しています。月謝は高いですが、プロに任せる部分も必要だと考え、5年生から取り入れています。それが息子の自立的な勉強習慣の助けにもなっています。

田中:
関わり方で良かったと思う点はありますか?

Wさん:
テストの後に「どうだった?」と聞かないこと、どんなに偏差値が低くても決してネガティブなことを言わないことです。テストが良ければ本人から言ってきますし、言わないということはできなかったのだろうと推測できます。できなかったことを突っ込んでも良いことは何一つないので、絶対に聞かないようにしています。偏差値が低くても「今分かって良かった、本番で頑張ろう」と励ますことに徹しています。

質疑応答

田中:
参加者からの質問に長谷川先生にお答えいただきます。まずは「低学年のうちにやっておくと良いこと」について教えてください。

長谷川:
まず計算力と読解力が最も大事です。とくに計算力がないままカリキュラムがハードな塾に入ると全然ついていけなくなります。100マス計算で引き算が3分前後、2分台くらいが理想ですね。次に体力も重要です。水泳でも虫取りでも何でも良いので、体を動かす習慣をつけることをお勧めします。

また、低学年のうちに分数や小数など小学校の範囲を軽く学んでおくと、小4後半から難しくなる時期も乗り越えやすくなります。

田中:
夫婦共働きで、勉強に関して妻が厳しく管理している場合はどうすべきでしょうか?

長谷川:
今はうまくいっているかもしれませんが、5年生後半くらいからは全部できるようにするのは100%無理になります。例えばお母さんが体調を崩して1週間寝込むと、それまでのシステムが崩れてしまうこともあります。子どもが自分でできる状態にしておかないと、そういう危機に対応できません。お母さんがいないと何もできないという状態は非常に危険です。

田中:
中学受験を合格したら、中学での授業についていけるものですか?とくに繰り上げ合格の場合など。

長谷川:
理論上は大丈夫です。実際に再開で受かった子が高3ではずっとトップ層というパターンもよくありますし、逆に上位で受かっても油断して下がる子もいます。重要なのは入学後に小テストや定期テストを真面目に受けるかどうかです。中学1年の内容は比較的簡単なので、夏休みなどでリカバリーは可能です。ただ中3くらいまでには回復させておかないと、高校以降で「勉強とは何か」というレベルから分からなくなることもあります。

最後に

中学受験は単なる学校選びではなく、親子の成長の機会でもあります。今回のイベントでは、父親が冷静な視点で長期的な目線を持つことの重要性や、子どもの気持ちに寄り添うメンタルケアの大切さが浮き彫りになりました。

中学受験を経験した3名の父親からは「夫婦で役割分担する」「子どもの前でネガティブな言動を避ける」「子どものモチベーションを高めることを意識する」など、具体的な工夫が語られました。特に共働き家庭では、全てを完璧にこなそうとするのではなく、プロの力も借りながらバランスを取ることが重要なようです。

中学受験を検討している親御さんにとって、今回のイベントの内容が少しでも参考になれば幸いです。

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