男性の育休取得率は向上している一方で、「取るだけ育休」や復職後の両立の難しさが次なる課題として浮上してきています。
こういった課題は、社員の働くモチベーションや離職率に影響しうるものです。
2025年の国際男性デーに合わせて開催した本イベントでは、男性従業員が復職後も仕事と育児を両立しながら活躍している企業が登壇。これまでの取り組みや高い育休取得率を維持している理由、新たに見えてきた課題、組織カルチャーについてお伺いしました。
<全シリーズ>
・第1回:「働くパパのリアルが集結!令和の父親から見た課題とこれから」
・第2回:「受験戦略家・長谷川智也氏に聞く!我が子の中学受験どうする?父親の関わり方」
・第3回:「男性育休の“その後”を支える企業の挑戦 〜『仕事と家庭を両立できない』を理由とする離職を防ぐには〜」
・第4回:「40代からの人生再設計『父親たちのミッドライフクライシス』」
<イベント概要>
・開催日:2025年11月5日(水)
・主催:XTalent株式会社
・共催:Daddy Support協会、パパ育コミュ、一般社団法人Papa to Children、NPO法人ファザーリング・ジャパン
▼スピーカープロフィール
男性育休にまつわるポジティブな変化と課題
東一:
まずは、株式会社TRUSTDOCKの千葉さんからお伺いしてもよろしいでしょうか。
千葉:
弊社は経営陣の8割ほどにお子さんがいることもあり、創業時から「子供を育てながらスタートアップで頑張る」ということがごく当たり前の文化としてありました。パートナーの出産を機に育休を取りたいという希望にも、当初から理解があったと思います。
ただ、会社が100人規模に成長し、社会から求められる成果へのプレッシャーも高まる中で、ポジションによっては「育休を取っている場合じゃないんじゃないか」という雰囲気が生まれつつあることも課題だと感じています。昔は当たり前だった空気を、今は「会社として支援しますよ」とメッセージとして発信し続けないと失われてしまうのではないかと感じています。
東一:
会社のフェーズや社会からの要請によって、制度や環境を整理していく必要があるということですね。次に、株式会社トラストバンクの金安さんはいかがでしょうか。
金安:
弊社は300名近くの企業で、男女比が半々です。子育て世帯が増えており、役職者が率先して育休を取ることも多かったため、「取ることが当たり前」というフードがあったように思います。私自身も入社後に育休を取得しました。
とはいえ、世の中や会社は常に変化しています。「今までこうだったからOK」ではなく、課題が出てきたときにどう解消するか、他社はどうしているかと常にアンテナを高く張っています。
東一:
DIGGLE株式会社の下村さんはいかがですか。
下村:
弊社は平均年齢34歳で、未就学児のいる社員が全体の40%ほどです。どんなバックグラウンドの方でも活躍できる組織づくりを大事にしているので、仕事と子育てを両立したいという思いも、その方の強みや個性として受け入れています。男性の育休取得率は対象者のうち7割ほどで、長い方だと半年ほど取得しています。
一方で課題としては、スタートアップなので人的リソースが潤沢ではない点です。育休取得者を加味した組織設計になっているかというと疑問が残りますし、HRとしても対処しなければいけない部分です。
ポジティブな変化としては、男性自身の育休に関する情報感度が非常に高まってきたことですね。2年前は「奥さんに聞かないと分からない」という方もいましたが、最近はご自身で国の制度などを調べていらっしゃいます。
企業側は男性育休をどう捉えているか?
東一:
企業側の立場として、男性育休についてどうお考えでしょうか。Q&Aで「育休で不足した人員の補強やフォローをどうしていますか」というご質問もいただいているので、その点も絡めてお話しいただければと思います。
千葉:
私たちは社会のインフラになるような事業を目指しているので、短距離走ではなく、長く事業を続けるための組織作りを意識しています。その中では、社員の様々なライフイベントに対応し、寄り添える会社でありたいと考えています。
ただ、人員補強の課題はあります。重要なのは、パートナーの妊娠がわかった段階など、なるべく早いタイミングで相談してもらうことです。そうすれば、短期間の業務委託を入れるか、今いるメンバーで業務を割り振るかなど、状況に応じた打ち手を考える時間ができます。
個人的なポリシーとしても、男性が育休を取れる世の中にならないと社会的にアンバランスだと感じています。女性だけが育休を取りやすい構造だと、復職時に必ず歪みが出てきます。各企業がそれぞれ向き合うことで、結果的にみんなの負担が軽くなるはずです。
金安:
会社としては、本人が取りたいと思った時に、その意思を尊重できる体制や環境を提供したいと考えています。育休に入る際は、期間や周囲への負荷などを上長と話し合いながら、打てる手を打っていく形です。
人事としては、取得する本人だけでなく、残された社員へのフォローも重要視しています。例えば、業務負荷が増える分を目標設定に加味するなど、送り出すために頑張ってくれるメンバーを会社としてもしっかりフォローしたいと考えています。
下村:
育休は一般的な休職と同じで、事前に精度高く読んで対策するのは非常に難易度が高いと思います。それよりも、発生を早めに検知したり、発生した後に目標達成できる体制を企業側でサポートしたりすることの方が大事だと考えています。
「育休を取りたい」という申し出の前の段階で、「そういう選択肢もあるんだよ」と伝えることで、会社側も予測を立てて準備を進められます。まだまだやりようはあるのかなと思います。
高い取得率を支える「応援産休制度」とトップの意思表示
東一:
みなさんの会社では、高い育休取得率をキープ、または向上できている理由は何だとお考えですか。具体的な取り組み事例も交えてお聞かせください。
千葉:
弊社では、育休取得者から「自分の業務を代替してくれた人に申し訳なさを感じる」という声を多く聞きました。そこで、産休・育休中のメンバーの代替業務を行った社員に対してインセンティブを支払う「応援産休制度」を作りました。休業中の社員の人件費の一部を原資にしているので、会社として追加の予算は必要ありません。
金安:
私は「ライフキャリアレインボー」という考え方を働き方改革に取り入れました。キャリアを仕事だけでなく人生全体で捉え、仕事、家庭、趣味など様々な役割(ライフロール)が重なり合ってできているという考え方です。育児だけでなく、家族の看護や親の介護など、様々なライフイベントに対応できる柔軟な働き方を制度として作ったことが、結果的に男性の育休取得率の高さにつながっているのかもしれません。
下村:
弊社で取得しやすい理由を考えた時に、2つあると思いました。1つは、経営層であるCTOが「ファーストペンギン」として最初に育休を取得し、背中を見せたことです。
もう1つは、代表の言葉です。ある中核メンバーが長期育休に入る際、全社イベントの場で代表が「正直、このフェーズで中核メンバーが抜けるのは経営として痛い。ただ、日本が抱える少子高齢化という問題に対し、うちの従業員が貢献できていることは非常に誇らしい」と話しました。このメッセージによって、会社が子育てと向き合うことを受け入れているという文化が根付いたのだと思います。トップの意思表示は非常に大事なポイントです。
育休取得前から復職後まで。切れ目のないサポート体制
東一:
育休取得をサポートする上で、他にも具体的な取り組みがあれば教えてください。
千葉:
育休がうまくいくかどうかの違いは、取得前にいかに自分の仕事を棚卸しして引き継げる状態にしているか、という点が大きいと感じます。属人化しがちな業務を仕組み化する良いチャンスでもあります。
また、育休取得前面談では、少しおせっかいかもしれませんが「パートナーとちゃんと話し合っていますか?」と一言添えるようにしています。まずご家族で「ファミリーキャリア」をどう描くかを考えてもらい、その上で会社として何ができるかを提示するのが大事だと思っています。
金安:
育休中や復職時は、色々と考えるタイミングだと思います。当社では、外部のカウンセリングサービスや相談窓口を用意しており、上司や会社の人に言いづらいことも気軽に相談できる体制を整えています。育休中に限らず、自身のキャリアの棚卸しなどで利用する社員も多いです。
下村:
弊社では採用段階での「エントリーマネジメント」にこだわっています。最終面接の前に必ず人事面談を設け、制度の説明をしたり、ご家族からの応援は得られているかなどを確認します。直近では、お子さんが生まれる予定がある候補者の方に、早めに入社して育休を取るという選択肢を提示したケースもありました。
質疑応答「営業職の育休取得は可能?」「取得後の評価は?」
東一:
「営業職の育休取得は実質可能なのでしょうか」というご質問が来ています。
千葉:
営業職はクライアントありきなので、自分だけの都合で業務調整しづらいですよね。1ヵ月前と言わず、もっと早い段階から後任者と一緒に仕事をするなど、並走期間が必要だと思います。人事からできることとしては、営業の上司の方に「休んでいる間は仕事をしなくていいようにしてください」と、育休取得が決まった段階から言い続け、引き継ぎ状況を確認していくことです。
東一:
「育休取得後の評価に影響はありますか」という質問も来ています。
金安:
育休を取得したこと自体を理由に、昇格の対象にならないというのは違うと考えています。ただ、育休によってデメリットがあると感じさせてしまうと取得を阻害する要因になるので、評価者の考え方を人事がしっかりとインプットしていく必要があります。
下村:
弊社では、育休取得だけで評価に影響することは一切ありません。評価への組み込み方としては、その方独自の目標設計で調整します。例えば、半年の評価期間中に2ヵ月休むのであれば、残りの4ヵ月の稼働時間で達成すべき目標を設計し、その実績を評価に反映させています。
東一:
みなさま、本日は貴重なお話をありがとうございました。
まとめ
今回のウェビナーでは、男性育休を推進する先進企業3社のリアルな声が交わされました。
育休取得が当たり前になりつつある一方で、企業の成長フェーズに応じた課題や、人的リソースの制約といった現実的な問題も浮き彫りになりました。成功の鍵は、経営層の明確な意思表示や率先した取得、休む本人だけでなく周囲の社員への配慮(インセンティブ制度や評価への加味)、そして採用段階から復職後まで続く切れ目のないサポート体制にあることが示唆されました。
各社が試行錯誤しながらも、社員のライフイベントに寄り添い、持続可能な組織を目指す力強い挑戦が語られました。









