人生の分岐点となる40代。多くの父親たちが直面する「ミッドライフクライシス(中年の危機)」。
キャリアの停滞や家庭での役割の変化、体力の低下、親の介護など、「このままでいいのか?」という迷いや焦燥感を抱える人は少なくありません。
2025年の国際男性デーに合わせて開催した本イベントでは、産業医・産婦人科医であり、Daddy Support協会 代表理事を務める平野翔大氏をお招きし、ミッドライフクライシスの正体と背景にある社会的・生物学的要因を解き明かし、これからの人生をより豊かにするためのヒントについて議論しました。
<全シリーズ>
・第1回:「働くパパのリアルが集結!令和の父親から見た課題とこれから」
・第2回:「受験戦略家・長谷川智也氏に聞く!我が子の中学受験どうする?父親の関わり方」
・第3回:「男性育休の“その後”を支える企業の挑戦 〜『仕事と家庭を両立できない』を理由とする離職を防ぐには〜」
・第4回:「40代からの人生再設計『父親たちのミッドライフクライシス』」
<イベント概要>
・開催日:2025年11月19日(水)
・主催:XTalent株式会社
・共催:Daddy Support協会、パパ育コミュ、一般社団法人Papa to Children、NPO法人ファザーリング・ジャパン
▼スピーカープロフィール

「このままでいいのか」40代で訪れるミッドライフクライシスの正体
上原:
本日のテーマである「ミッドライフクライシス」について、まずは定義をそろえたいと思います。
一般的には、「主に40代から50代にかけて、人生の折り返し地点で『このままでいいのか』と自分の人生やキャリア、生き方について悩み、心理的な不安や葛藤を感じる状態」とされています。体力低下などの身体的な変化や、子育ての終了といった社会的な役割の変化が重なることがきっかけになると言われています。平野さん、補足があればぜひお願いします。
平野:
心理的な話としての「クライシス」とは、これまで自分を確立していたものが揺れ動く時期を指します。ミッドライフクライシスは、まさに40~50代にかけて起きやすい、心理的な問題から社会や身体の変化も含めた包括的なものと捉えられます。この年代にはさまざまな要素が重なりやすいため、特に取り上げて考えることが大事なのだと思います。
上原:
なるほど。では、そのミッドライフクライシスが起きる要因をもう少し掘り下げていければと思います。
まずは身体的な変化、つまり「生物学的要因」についてはいかがでしょうか。
平野:
みなさんにサザエさんを思い浮かべてほしいのですが、波平さんは54歳です。今の54歳と比べると、だいぶ年上のイメージですよね。人間の見た目はどんどん若くなっていますが、中身はそう簡単に若返りません。40代はまだまだバリバリというイメージを持たれがちですが、身体的なピークは過ぎています。徹夜がきつくなったり、健康診断でさまざまな所見が増えてきたりするのもこの年代です。疲れのたまりやすさが変わってくる、それが40代というタイミングなのでしょう。
上原:
「昔みたいに徹夜はできない」と周りもよく言っていますね。20代の頃とは感覚が変わってきている世代だということですね。
では、もう一つの「社会的要因」についてはどう捉えればよいでしょうか。
平野:
仕事における役割の変化が大きいと思います。40代は責任ある立場になりやすい世代です。課長と部長では求められる責任に質的な違いがあると言われるように、仕事上の役割が大きく変わります。そして、40代になると、その後のキャリアの上がり方が見えてきます。さらに上がっていく未来が見える人もいれば、不透明になってくる人もいる。特に男性を考える上では、まず仕事上の変化を考えなければいけないでしょう。
上原:
会社の規模によっても期待される役割は変わりますね。ベンチャーなら役員になっている人もいるでしょうし、大企業なら管理職になりたてか、これからなるか、というくらいの人が多い。上の世代を見ると、仕事に全てを捧げ、休日の接待ゴルフも何でもOKという人たちが活躍している。それを見て「自分はこうなりたいんだっけ?」と悩んでいるという声は、withworkを運営する中でもよく聞きます。
平野:
社会人人生が20歳から60歳までだとすると、40歳はちょうど真ん中です。これまでの20年を振り返り、これからの20年を上の世代の姿を見てイメージした時に、「この生き方はできるんだろうか」という疑問が出やすいのだと思います。
上と下の世代の「板挟み」。価値観の激変期を生きる困難さ
平野:
今の40代特有の状況として、子育てとの関係も挙げられます。昔は20代で第一子が生まれることも多かったので、40歳の頃には子どもは高校生くらいで、育児も少し落ち着いていました。しかし今は、40代で子どもがまだ小学生という方も珍しくありません。育児もまだ続くし、教育費もかかる、その中で仕事の次のステージを考えなければならない。悩み事が非常に重なりやすくなっています。
上原:
本当にそうですね。40代で子どもが保育園に通っていれば、送り迎えもありますし、共働きなら男女ともに仕事も育児もやることはたくさんある。でも、上の世代を見ると、そんなことは全くせずにバリバリ働いている。彼らと同じようにはできないけれど、この組織でどうやってキャリアを築いていけばいいのか、と悩む人は多いです。
平野:
世代間のギャップは大きいですよね。50代、60代の上司世代は、それが当たり前でやってこられた。一方で、今の若い世代は全く違う価値観を持っている。その狭間にいるのが今の40代です。
上原:
今の40代は、20代の頃はまだ働き方改革なんて言葉もなく、「パワハラも上等」という世界でタフに働いてきました。そうしてなんとかやってきたのに、下を見ると価値観がガラッと変わっている。「自分たちはこれで生き抜いてきたけど、今の世代は違うんだな」というギャップに直面しているわけです。
平野:
就職氷河期世代も多いですから、「はい、喜んで」としか言えなかったんですよね。それで生き延びてきた。でも下の世代から見れば、そんなのはありえない。この変化のダイナミズムにずっとさらされてきたのが、今の40代なのだと思います。
上原:
ジェンダー観の変化も大きいですね。企業で女性活躍をサポートする風潮はできてきましたが、男性への支援は遅れています。「男なんだから育休から戻ったら今まで以上に働くよね」という暗黙のプレッシャーもまだ根強い。こうした価値観の変化も受けていると感じます。
平野:
変化の時には、つらい立場になる人が出てきます。男らしさの悪い面、例えば威圧的な態度は抑制されるようになりましたが、一方で「強くあらねばならない」「弱音を吐いてはいけない」といった内在化された男性性は健在です。外的な振る舞いは変えるよう求められるのに、内面的なケアは追いついていない。その結果、「どうコミュニケーションを取ればいいのか」と悩む人が増えている印象です。
求められるのは「弱さを見せるスキル」。危機を乗り越えるための心構えとは
上原:
こうした複雑でシビアな状況に対して、私たちはどう向き合い、解決策を見出していけばいいのでしょうか。
平野:
まず、体の変化は自覚しにくいものですが、「自分は元気だ」と思い込まず、客観的に認識することが大事です。体力も落ちてくるのだから、全てが上向きにはいかないと心に留めておくだけでも、自分を守ることにつながります。社会的な要因については、視点を変えることが有効かもしれません。これまでは人口が増え、経済が成長していたので、上の世代を見ることが最適解でした。しかし、これからは労働人口が減っていく時代です。そうなると、上を見るより、むしろ後ろ、つまり下の世代や左右の同世代を見る方が合理的ではないでしょうか。
上原:
上の世代の価値観に合わせるより、次の世代の価値観を見て、彼らと一緒に生きていけるように変化していく方が合理的だというのは、間違いなくありますね。
平野:
40代は、変化に適応できないわけではない年齢です。これからの変化を見据え、そちらに適応していく方が良いのかなと思います。
上原:
転職支援をしていても、「こうあるべきだ」という考えに縛られている方が非常に多いと感じます。でも、その「べき」論だけで生きることに苦しさを感じ始めているのなら、一度立ち止まって「自分は本当は何をしたいんだっけ」「どうありたいんだっけ」と考える時間を持つことが大切です。そのために転職するのも一つですし、今の仕事はライスワークと割り切り、ライフワークを別に見つけるという選択肢もあると思います。
平野:
参加者の方から「伝統的な男らしさと新たな価値観のダブルスタンダードが生きづらさを生んでいる」というコメントをいただきましたが、まさにその通りです。これを乗り越えるためにも、先ほど話した「弱さを見せるスキル」は非常に重要になります。
上原:
弱さを開示することは、ある意味スキルですよね。
平野:
ええ、すごいスキルです。特に育児をしていると、これができるかできないかで全然違います。夫婦がお互いに「これがつらい」「これはできない」と開示できれば、協力して乗り越えられます。これは職場でも同じで、このスキルがあるかないかで、大きく変わってくるはずです。
【質問①】男性の育休取得がキャリアのマイナスになる構造をどう変えられますか?
上原:
視聴者さんから質問が来ています。「男性の育休取得が社会的には認められ始めています。ただ、どうしても結果を出す機会が減るので、キャリアにとってマイナスに認識されてしまうことが、男性育休の問題を生んでる1つな気がします。」とのことです。
平野:
身も蓋もない言い方ですが、そういう企業からは転職していくのがいいと思います。
上原:
そうですね。育休を取ったら「あいつはキャリアを降りた」という目で見られる会社に、この先も身を置き続けるのか、という問いは重要かもしれません。
平野:
今まで120%で働くことを前提にしてきた企業で評価が下がるなら、いっそ環境をリセットして、今の自分の働き方をデフォルトとしてキャリアを歩める企業に移る方が、今後を考えれば最適解になり得ます。人材の流動性が高まっている今、転職は決してネガティブな選択肢ではありません。
【質問②】子育てで自分の時間がなくなり、今後のキャリアが不安です。
上原:
次の質問です。 「親になる前は休日も自己研鑽に当てていましたが、この10年間は育児を優先し、自分のスキルアップの時間を削ってきました。子どもが小学校高学年になった今、ふと今後のキャリアに不安を感じます」というご質問です。僕も子どもが10歳なので、よく分かります。
平野:
仕事という単一の軸で見るとネガティブに感じるかもしれませんが、子育てを通じて得たものはたくさんあるはずです。例えば、仕事だけでは出会えなかった人との関係値など、人間としての資源は確実に増えています。多様化した資源を手に、次にどうつなげていくか、という視点で見れば、今後のキャリアにとってポジティブな面も多いのではないでしょうか。
上原:
若い頃は120%の力でアクセルを踏んでいたかもしれませんが、もう一度120%で走る必要は絶対にありません。80%から100%くらいの力で、仕事とそれ以外のことにどうリソースを配分するか、もっと素直に考えていけると良いのかもしれませんね。
まとめ
ミッドライフクライシスは、身体的・社会的な変化に加え、価値観の変遷に揺れる現代の40代男性が直面する深刻な課題です。
旧来の「男らしさ」と新しい働き方の狭間で葛藤する彼らにとって、解決の鍵は「弱さを見せるスキル」を身につけ、視点を変えることにあります。
上の世代を追うのではなく、同世代や下の世代と連携し、キャリアや人生を再設計すること。
そして、子育てなどの経験を新たな資源と捉え、自分らしい生き方を見つけることが、この危機を乗り越える力となるのではないでしょうか。









